江戸カルタメイン研究室別館

~『歓遊桑話』全文のテキスト翻刻 HTML版です~


桑林軒著『歓遊桑話』の全文を掲載致します。底本としたのは、昭和五十四年に東京堂出版から刊行された論文集『天明文学―資料と研究』(浜田義一郎編)に収録の『歓遊桑話』(佐藤要人)です。出来る限り底本通りの表記を目指していますが、一部、旧字体が表示不可能なものについては新字体に代えております。尚、全く表示不可能な文字数点については、末尾の「注」にて字形を説明してあります。
 漢文体の部分で、文字の右下に付く「一」「二」「レ」は返り点、右上に付く片仮名は「送り仮名」「捨て仮名」を表しています。

尚、ご覧頂くに際しては、それこそざっと目を通して頂くという程度で十分かと思います。重要と思われる部分に関しては、本文の解説の中で採り上げていきますので、今は全体の雰囲気を掴んで頂ければ十分です。それでも、しっかりと読み込みたいという殊勝な方に関しては、あえてお止めはしませんが、もしも頭痛やめまいといった何等かの身体症状が発生した場合、当方では責任を負いかねますので予め御了承の上、あくまで自己責任にてお楽しみ頂きます様、宜しくお願い申し上げます。

『歓遊桑話』享保末~宝暦頃刊

千早振ル神之御氏子下備ケヒ卑拙ヒセツマテユタカスメル寿ハ(マヽ)ニ神之御恵明ケキ風楊柳ヲ吹ドモ枝ヲ不鳴。雨軽塵ケイヂン穿ウテドモツチクレクダカズ難有ケル御代ナレヤ。然バ中華モロコシニハ詩作ヲ以謡物トセリ。和国之風俗イトモ賢キ皇之道ノ道タル習トテ童之口号クチヅサミニ御月様幾ツ十三七ツト往古イニシヘヨリ自然ノ道理ヲ謡リ。是ヤ此神哥也。拝ニ童蒙ノ弄ニ加留太之意味ヲ一一ツラ/\思惟ヌ。其様唐渡之

1丁オモテ

物ナレバ搪様之イチハ一二三ノ数卦爻クワコウ繫辞ケイシラケンシ一貫通達シム。夫神理声ナシ。言葉ニヨツテ意ヲ興シ、言詞ハ無跡文字ニ縁テ音ヲ(マヽ)ス。故ニ字ハ言ノ符蹄フテイトシ、其理ヲ述ベツクスヲ言之符セントス。琴棊書画之玩ビ中ニモ加留太ノ画(マヽ)ヲ見バ、理有テアナガチ無道之物不成。然ルニ予愚意ナガラ、手コウ織ニ製作スルニ馴テ、閑窓カンソウ数日サグリ求、拙モ一編ス。見聞之人ノ嘲リヲモ恥ズ、又其一ニ三ニエツ〔マヽ〕付、童蒙ノ一助トス。偏ニ竿棹カントウ以テ比辰ヲ搗、網ナ

1丁ウラ

フシテ渕ニ臨ニ似タリト云トモ、其用益ヲ寸志シテ加留太ノ由来ト為事爾リ。
    桑林軒謹選誌

  印(桑林)(加留太亭)

  加留太
客問、本ホウセン民号シテ加留太テン勝負答日、是蛮語バンゴニシテ即蛮人スベテ画図シヤウス加留太。而ルニ今所モテアソブ者、彼 国之楽遊具也。此ハンシテ四品。朱而為伊寸イス農耕名也マドカナル

2丁オモテ

彩色有遠々留ヲヽル商売名也。青色ニシテ巴宇官吏義也。為朱並丸成者乞浮コツフ酒器也。又十馬切皆蛮人之形也。日本釈迦之十云者、彼土之神形也。凡言心ユタカ民安ノウタカヘシ。商人估買コバイ、吏政道。飲酒(マヽ)(*1)楽スル之祝言也。載タリ白河燕談云書
右所アラワス詞章シシヤウハ凡ノ大綱ヲ記シ了ヌ。且軍用ニ加留太ヲ持テリト云。尤僻事不成。ハカリコト帷幄イアク

2丁ウラ

中ニ廻ストカヤ。然ニ心一ツ致シテ水魚之如クスト。又雑兵スラ辛労ヲ休ジ、睡眠スイメンサマサシメントノ思慮タルベキカ。マコトニ中ニ一種ノ徳有レバ、外ニヲヽツテ十種ノ功有トハ、是ナン士卒之労ヲ保シ能クメグムトキンハ、衆軍喜懐ヲ遂ゲ、戦場ニ臨テ軍功ヲハケムモノカワ。
 加留太由来
濫觴ランシヤウレキは不知、其本旨を校訂カウテイしぬ。諸国名物考に加留太は筑後国三池に始まり、夫より花洛におひて、経師細工にて三池筑後屋

3丁オモテ

友貞抔と名付る加留太有しが古代の物故其名も捨ず、然るに其後次第売弘しが、経師細工より其業を別て、后々只一(マヽ)に今の黒裏加〔マヽ〕多と成りぬ。斯て加類多と云文字を尋に、漢ニ骨牌と書し、和に万葉字を用ひ、今は一向に京都の細工と成て、他国に曽而不成。只京都諸国へ売出せる矣。先人夾ならんで五人ウツ時ハ、則五濁塵に交るの神慮ニ叶、六人搏時ハ則六ヂン

3丁ウラ

境ニ遊ぶの道理不背。神ハ元より明にして、和光の同塵、結縁の始也。是におゐて、尋常ヨノツネコウの不和等、此席につらなつてハキン々然として和睦し、おのつから知己語らひ、面端の規模とす。一旦その機ニ望てハ、百ジウ脳裂ノウレツせしむ。一夕其興に乗ずるや、鬼神平伏す。寔に無我無心の歓楽、思無邪之有さま也。是常楽敬(マヽ)の床ニ遊宴するに似たり。夫禁字四十八字になぞらへ、四句

4丁オモテ

之偈を和釈して、和歌に教ていろはノ仮名文字を製作し、又父読母誦の開口の訓を付、まさに加類多打を読謂べし。又万葉字可留多と書、可留多カナルヲトヽムルコトとかや。且唐渡の加留太ハウンスムとて七十五枚有。しかも一キワ也。然るを、和朝之規則ノリに合せ、其理をチヾめ、枽数ソウスウとす。ソウの画たるや四十八、因茲ヨツテコレニ名付て枽札ともいつべし。蓋異朝には加留多を打に盤有也。碁、将棊、双六と

4丁ウラ

ひとしく、故に加留多も一面と云矣。
  加留太インジ故事大概
伏羲フツキ一ツ画始め給ひ、何等ナンラの文字と云共一点を不出、是より形質を成す。言語音律道を辧ず。天地万物の始終を明る事、敉量に至て敉量をしる。言語開けて万物象有、象有れバ文あり、字有。文字成て道開け、物の名をしる。善悪を辧ふ。善ならず悪ならざるを中と云。中ハ天下の太平也。人心の興也。其真の述を顕すハ誠

5丁オモテ

乃言葉猶し。真のヲトロへさらんやうにと云ものを以て、その事を正す。是明法と云。

  和漢 三才(マヽ)会巻十七所見
囲碁・象戯・双陸・蹴鞠・八道行成ムサシ・毬(マヽ)・投壺。
投壺経、内典之。礼記投壺。西京雑記等仔細ニス
貴賤射楊弓、争勝負戯者多。古今風俗変不投壺而已也。相撲・擲石・意銭・撃壌・鳩車・紙辧色立成云。書所謂続事始、太平御覧、有日月星辰之目。有将士

5丁ウラ

歩卒車馬弩砲之象千変万化不
 樗蒲カルタ(チヨボ)九采・〔マヽ〕(*2)子
之日樗蒲。和名加利宇知。俗作樗蒲非也。樗ハ胡化切。樗ハ抽居切。
 キユイ。ブウ
五雑〔マヽ〕曰博戯三代之。穆〔マヽ〕子与井公スルコト三日ニシテ而決。荘周ナニヲカトスル。則博塞シテト云ヘリ。今之樗蒲是其遺法也。但所用之子随時不(マヽ)。今樗蒲、楊廉夫作。然ドモ其用有

6丁オモテ

五子四子三子之異ナゾウレバ古法弥簡ナリ矣。
△按樗蒲其製古今不(マヽ)。今所用者本出於南蛮ヨリ。用厚紙之。外内白。而有画文。青色名巴宇。赤色名伊須。円形名於留。半円名骨扶。之四品、各十二共四十八枚。其画一則虫形名豆牟。二ヨリルトモニ九画数目也。十則僧形即名十。十一騎馬即名牟末。十二武将名岐利。其名目亦蛮語矣。凡樗蒲賤民喜弄之。貴家之。総博塞

6丁ウラ

一二銭モノ、後ニハ金銀メニ之衣服資財一時放下而盗賊多於此ヨリ
所謂イワユル十ハ僧形ト云非也。蛮国には無僧也。十ハ女形也。十より子を生故に、十一、十二と数の子産。然バ女形なり。天竺にてハ婦人を夜叉ヤシヤと云。彼国にてハ叉嬶シヤカと云。本朝にてハ婭嚊アシヤウと云。十を叉嬶と云謂也。重数の母也。偶数なれバ也。
正説郛津逮秘録・(マヽ)(*3)泉譜・類要事林・事物紀原等

7丁オモテ

抑本朝にて、春始源氏絵(マヽ)貝合を初り。其後中院(マヽ)村公小倉色紙哥合を加留多中立売麩屋何某に命じて作らせ次第追て今専業を所為之職之渡世とす。
夫易の一字ハ日月の二字を合て作れり。日ハ陽月ハ陰、日往月来り一陰一陽循環ジユンクワンして不ヤマ。その陰陽循環の理の真なる所は、神妙不シキにして、人智を以てシルに及ざる所、いまだ卦爻クワコウにあらわれず。天地の中に具足して有ゆへに、天地自然(マヽ)易と云。一ト度ハ栄へ、一ト度はヲトロふ。凡栄枯の移りカワれる有様誠に是自然の易の道理也。人身にも若(マヽ)スイマタ々々同じ也。伏羲の易に周の文王繫辞ケイジをなし

7丁ウラ

周公旦コウ繫を添る。孔子十(マヽ)を作り十翼とゆう。四聖を歴て易成就せり。王神妙の洛書有故、以上五聖人を崇敬する也。三皇五帝の因縁笑戯シヤウケ荒々如
加留太の敉量スリヤウの像を顕然し、童蒙に事理すみやかに[ ]を暁えんと、古人[  ]し給ふならん。加留太の図画を童蒙のために縁起して、一二三の意味を一二ツマビラカならねども、左に記。
○神語(?)十七言ノ中、和語ノ一二三
イツナヽ

8丁オモテ

 子倫コヽト
○唐(マヽ)一二三但シヤン酒ニ云
イツユ リヤシ〔マヽ〕 サンナ スムユ コウ ロマ チエマ ハマ クワイ トウライ
○梵言一二三但シ阿蘭陀音声也
イン テヘー テレー ヘイフ アヲテー ネイヒン ネヒス○ スエヒン○ スエクン インシケンーヒ右但シ○有ハ舌ニ付
○一二三の十字
△丁下ヲ除一也故不勾ト記 示不小 王不直 罪不非 吾不口 交不乂 皂不白 分不刀 丸無点 針不金
○一二三の方角
△一ハ北ノ方 水深輪 二ハ南方 火陰 三ハ東方 木陽 四ハ西方 金陰 五中筌 陽音 六水一 土五加 七火二 土五加 八木三 土五加 九金四 土五加 十土五ノ倍数

8丁ウラ

○一二三の異名
△一亦下 二舌要児 三凡魯班 四都魯班 五  〔マヽ〕 六只魯蛮 七朶蛮 八餘蛮 九曳孫 十合魯班
○一二三の篆字
△〔省略〕
△一ツ画ハ
ひとつハ開キトヅル也。開ハ則陽の理、閉ハ陰の気也。■阳インヤウ(*4)聚まりて質をなす。是比登津ヒトツと訓ず。其一ツの元ハ理也。理ハ不生不滅にしてイキなく声なし。以言をイヽがたし。故に歴記に鴻濛コウモウと云。儒家

9丁オモテ

に無極とゆう。仏氏に空とゆう。神道ニ渾純コントン(マヽ)とゆう。則円融の義也。混(マヽ)未生以前なれバ、無相無也。故ニカタトリを虫ニ作り、虫を(マヽ)(*5)哉。是鶏の子の如く、溟涬クヽモリて含キザシといふ。一徳元水共ゆう。此水無波無風湛然タンゼン空明なれども、理を備へて一つと成らんとす勢有。然るに、加留多に一むし四枚有り、中にも一枚をあざと珍美せり。是アザナの下略の云也。発端ホツタンの一なれバ惣領といふ。てう愛あり。アザヤカとも云つべし。

9丁ウラ

△二画ハ
ひとつハ陽。陽ハアキ〔マヽ〕ぎ開て奇数キスウとなる。二ハ陰。陰ハ俯シ、降て立つてグウ数と成る。易に以陽卦陰卦を為耦。神道以陽神独化の神となす。亦陰神を耦升神となすなり。二ハ天也、地也。陰陽清濁升降して乾と成、ツチナリ成就ナリナツて父母也。ニツの気、俯して火気立故ニ不太津と訓ズ。
△三画ハ
陽中の陰気、陰中の陽気ト合してミツルを三ツとゆう。一ツハ陽にして理、二ツハ

10丁オモテ

陰にして気、三ツハ理気合ひミチて形成る也。三種ノ神(マヽ)を表し、神(?)心のアメの道大いに行われ、万物生々す。是を伝へて乾道独化とゆう。是レ天一より始り、地二儀交錯して三ツに開け、万物成る。震旦にも天地人の三才出るより智仁勇の三達の徳、月氏に法報応の三身より示空仮中之三諦。三国の教皆三を以てサト、能明成時を陰幽顕ユウケン象物の表裏、皆其極にいたらざると云事なし。此三ツを陽に借て、一ツの形成故に、三ハ一ニ帰方尺有バ円ク三人有

10丁ウラ

△四画ハ
四ハ陰也。陰の質をなすは、陽去れば陰自をよるを以て質を成也。陽ハ一より生じて三にて形なす。陰ハ二ツより生じて四にて陽のさるに寄を以て形をなす。四ハ陰数にして四に分る。カタドル■■クハイクハイ(*6)に四方に象なり。
△五画ハ
一チ三ハ天、二四ハ地、五ツハ天地中央の数にて土に属す。天地万物を皆陰陽中和の気、土より出るを五とゆう。三を以て陽気成り四ツを以て陰気成る。五を以て陰陽変合して、万物化生す。万物の気質皆以テ

11丁オモテ

土より出ざるハなし。中の名興於此。また土より出てちに帰る。故に五鬼の土とゆう也。天の五(マヽ)、地五行、人の五常、体の五臓、声の五音、食の五味、粮の五穀、皆土に属。五ハ双、陰陽天地の中間に交なり。ケン交午コウゴに象ル。二ハ天地也。増韻ニ五ハ中数也。
△六画ハ
万物五より出て、六に至てみつる。六は陰陽の質充なり。凡充て満ものは天地の間におゐて、水より大成ものハなし。水の水たる事、興一徳水の気より三カタチ生じ、六流なって行水と成る。流行水五の

11丁ウラ

中を受る時ハ、水勢泛溢ハンタン(マヽ)して洪水をなす。易に数陰変於六、正於八
△七画ハ
万物の形質五ツより出て、六に満て七にて成り就るを謂。万物の形成る事独陰ならず。陽と交合てなる。六充て陰と成り就るを六害水ト云。是孤陽ならず、陰と交合て成る故に、一三五七の陽敉を以て則七ツに位して陽成り就る。是七ツに訓ズ。
△八画ハ
開くハ陽、聚ハ陰、陰陽合て質成て、出る声と発す。六七にて万物の気質成就して

12丁オモテ

後自出る音をやと云、やつと訓ズ。陰ハ二より生じ、四にて陽去り、四より起て八ツに帰す。爰に取て四八の敉量呼て四十八枚の加留多の札数をあ(?)り。十ハ空敉にして声に対て四十八ならん。亦ウラナイ(*7)八卦に、乾ソンコンコン、同く約して軍言に、天地風雲竜虎鳥蛇[ ]四方四隅を合て八卦也。夫より分散して八八、六十卦を立る也。八降の御劒、八声の鳥、八乙女、皆口伝と有。八の敉甚深の理有て秘し略之書せり。
△九画ハ

12丁ウラ

夫レ人物理備なわって質生ず。質生じて声出る時ハ事々物々莫不成就九ツにおゐて一物一理成也。即是事々成就の敉、故に敉の大成至極となす。算道に九九八十一の敉を以て、大小方円直曲チツキヨクコウ悠遠イフヲンカウて天分を九野地別九州とす。九品(マヽ)、九井均シク、九礼弁、九変成、九ハ陽の変也。カタドルクツジン之形
△十画ハ
夫数ハ一より九ニ至て皆津とゆひ、トヲ至りてとおこる也。津ハ則也。

13丁オモテ

一ツより九に至て理気聚成形。故に津と云。トヲにて数止て亦起。故にトヲと訓ズ。此地ハ五鬼土と同じにて少しタガいあり。万物極て滅する時ハ、為地、地又生万物、生々不ヤスミ、是を十土地トヲトノチと云也。易に為剥卦。剥に九の一爻あり、是止りて起る也。ハク卦諸端を消剥ステニ生の理尽て、上九亦変ずる時純陰。然バ陽尽の理なく上に変ずる時ハ下に生ず。少も無間息。加留太此数におゐて人想を尽事、数ハ一より九に至り止り、一ハ早満数として已に物々成就

13丁ウラ

として人体を顕せり。人体寛緩の体(マヽ)を画たり。是太公望・范蠡ハンレイ・張良・諸葛クワウ等の軍師、儒者たるの躰なるべし。又、琴の糸にも一より十迠ハ敉を唱ふれど。十一、十二、十三、名付てト・イ・キンと云り。加留太の絵形も右琴の糸のトナヘと同意なる物欤。
△十一画ハ
大凶変ジテ一元ニ帰ス。敉ハ一より起り、九にて充、十にて変数し、又重敉始り、十一ハ已に満敉也。此声呼て有満ウマ。馬に作り、馬をエガけり。又欠たるを再興サイコウして、満を平直するのカケ引を、馬にたとへていて(?)なるべし。又馬乗に甲冑を

14丁オモテ

着したる躰、想バ官軍也。夫武ハ王法のカザリ也。怨敵ヲンテキ退治、国鎮守チンジユし修むる也。義臣、政道ニ私なく三レツを兼知る。仁勇をお(?)る時ハ、世属セシヨク刷也カイツクロウ。礼讓を以民をナヅケ、国家弥増豊饒也。スコブル武ハコレ天地陰陽相生の時ハ、衆人悦ビ伝[ ]す。可学ハ文タシなんで不捨は武道也。且、三、五、七、九、十一末。
△十二画ハ
一つより十ハ属、則者理気質の三つを以万物の始中終の敉起りて、始り始りて、終寓聚ヨクアツマルを無窮の敉と也。スベて一切敉より不出ハなし。然るに十二の因敉も

14丁ウラ

隅切ッなるがゆへ切りと唱ふるが、是も歩射に兵具をたいしたる体相を画たり。武ハ劔ゲキを以て人を破残害ソコナフといふ心にあらず、武の字、ホコを止ると書て、よく不義をタウして、国郡を太平ならしめ、干戈を嚢に納むるの名也。又武の要ハシスル二字にあり、且始、四帰、六、八、十正、十二終。
  右之件ハ
サン術・音イン篆籕テンテウの要文ヲ仮リニモトメテ記之畢。

 ◎加留太因縁
△壱ヨリ切迠十二枚、是十二ヶ月也。

15丁オモテ

△札数ハ一月三十日、土用十八日、合シテ四十八枚欤。
△加留太惣絵の小数合三百十二有り、右札数四十八枚の数ヲ加ヘテ三百六十有。是一年の日数也。
一ヶ年の日数三百六十四日ハ天ノ一年、三百六十日ハ地の一年。又三百八十四日と三百五十八日とす人の一年也。十一月ハ周の正月とて天の正月と云。十二月ハ殷の正月とて地の正月と云。又三十年来に壱度、十一月朔日に冬至在て、是を朔旦サクタン冬至とて和漢とも祥瑞シヤウズイとし、賀辞ガジの御祝有。爰に俗説の諺に、正月かるたをうてバ、夏蚊にさゝれぬと云伝へて祝言せり。是を今の正月ハ夏正月なれバ、かくなん云いはんべぬらん
△唐韻ニ
巴宇ハウ   春ゲン

15丁ウラ

伊寸イス   夏農蛮坤毛
乞浮コツフ   秋工ジウコウ
遠々留ヲヽル  冬売テキセキ
 右四品ハ四季也。
[カルタ図版]
巴宇ハウ   上之表シ 釼ノ鞘
伊寸イス   右同断  青龍頭寳釼
乞浮コツフ   右同断  白錦寳袋
遠々留ヲヽル  右同断  マトカナル黄金

16丁オモテ

△巴宇の劔の鞘ハ干戈を宝納する祝儀なり。
△伊寸の劔ハ煩悩生死のきつなを切る降(マヽ)の利劔なり。
△乞浮の袋ハ三恵の智を納る也。
△遠々留のまるかせは衣食住のタクワヘの三樽なり。

 ○珍曲加留太風流
加留太奇妙、裏より絵揃へ取中

16丁ウラ

先一二三四五六七八九十馬切と四通りながら手にとく/\と三四枚取揃持て、扨切まぜる法下より上へ/\と三四枚程づゝならし、五六枚成共持上重テ幾度成共切上ケ/\すり当のごとくには切らず、扨一枚つゝ十二取ておきて、初めの所より壱枚宛十二所へ加へ、四度加へ見れバ、同ジもの四枚も揃ふ也。又此四枚づゝ揃たるをとく/\手に取持、右の如ク下より上へ重上/\扨又四所に置ならべ、始めの所より一枚づゝ以上

17丁オモテ

十二度加へ見れば、一より切迠揃也。右を算術より考へ工夫出る面にして、敢て無道の所為と不可取物也。
夫レ加留太ハ往古の算術可成欤。十二枚を以、十百千万の大用の四通りを立つらん。今ハ翫物と成ぬ。それを廻り遠きとて、(マヽ)の易学より考へ出る。河図カト洛書ラクシヨ・洪範九チウを以取ことゝす。古へハ算盤も初板に碁盤の目の如く目を入る。商ジツ、法偶条グウジヤウと書つけて、算木を以て術とせり。近代三善保憲といふ人、十露盤を工夫仕始め、算法を出せり。
初段に載る白河燕談の言について曰、人万事塞翁か駒 、遊行頭枕聴雨賦と是非を示せり。水清

17丁ウラ

者魚踊ず。夫国邦(マヽ)栄なれば盗賊有。家富バ鼠有。身温肥なれバ虱有。是国邦に無用たりといへども群衆を糺す巨籥コヤクなり。邪正一如、善悪不二と云則ハ国政補作の大礼たるこそ円満目出度けれ。柳ハ緑花は紅ゐと自然の正理を示す。強て猥に不忍を是をトツて以て制すとかや。彼の郝公クハコウハ其黒白たる事を厳しく糺明し給ふより逆党のために亡国し給ふと云々。加留太全ク博奕物にあらず。其所変シヨヘンの用捨に

18丁オモテ

よる物欤。其外、賭禄カケロクすれバ、碁・将棊・双六も博奕とやいわん。一花開けバ天下の春を知り、鶯ハ梅か枝にくせりか(マヽ)、蚊蝶花に戯れ、時去り時移り、五月雨、あやめとかわり、早苗も秋のかぜに紅葉して、五穀成就して刈田を祝ふ賀儀の名にや。又正月ハ睦月とて七五三シメカケて、互に睦び会すの所謂なり。酒興の友とするかるたの翫楽笑悦を催し、目出度春也。
  ○跋
或客、加留太の将来をとふ度に

18丁ウラ

イキにはしまらざるもの故へ其伝なし。然共(マヽ)懇望コンモウせられ止事を得ずして、拙き筆を取むかへ、相応ヶ間敷俤を集め、一句二句と綴にマカセて漸々壱巻の艸書終ぬ。鄙言通文はつるに尤餘り有、[ ]いつしけれバとて、黄金を捨事なかれ。夫不見や、四徳の中にも義に依て文によらざれバと教へ給り。然ば此編集短悪未練の愚書なりといへども、予カウにいたずらに朽チはてんも無慙に

19丁オモテ

口惜く、アマネく童蒙にあたへんとかく斗
 △山風にふき伝へこし
   紅葉はをうち捨て
     かたく書集けり

19丁オモテ

(1)りっしん偏に「失」。「快」の異字体と思われる。
(2)『和漢三才図絵』のオリジナル版本では、木偏に「梟」。
(3)草冠に「卓」。
(4)一字目は、こざと偏に「月」。
(5)「尺」を平たく潰した形の下に「皿」。
(6)一字目は竹冠に「四」、二字目は竹冠に「儿」
(7)「爻」を左右二つ並べた形。

公開年月日 2015/07/23