江戸カルタメイン研究室別館
桑林軒著『歓遊桑話』の全文を掲載致します。底本としたのは、昭和五十四年に東京堂出版から刊行された論文集『天明文学―資料と研究』(浜田義一郎編)に収録の『歓遊桑話』(佐藤要人)です。出来る限り底本通りの表記を目指していますが、一部、旧字体が表示不可能なものについては新字体に代えております。尚、全く表示不可能な文字数点については、末尾の「注」にて字形を説明してあります。
漢文体の部分で、文字の右下に付く「一」「二」「レ」は返り点、右上に付く片仮名は「送り仮名」「捨て仮名」を表しています。
尚、ご覧頂くに際しては、それこそざっと目を通して頂くという程度で十分かと思います。重要と思われる部分に関しては、本文の解説の中で採り上げていきますので、今は全体の雰囲気を掴んで頂ければ十分です。それでも、しっかりと読み込みたいという殊勝な方に関しては、あえてお止めはしませんが、もしも頭痛やめまいといった何等かの身体症状が発生した場合、当方では責任を負いかねますので予め御了承の上、あくまで自己責任にてお楽しみ頂きます様、宜しくお願い申し上げます。
-
千早振ル神之御氏子下備之卑拙マテ豊ニ栖ル寿ハ城ニ神之御恵明ケキ風楊柳ヲ吹ドモ枝ヲ不鳴。雨軽塵ヲ穿ドモ壌ヲ砕カズ難有ケル御代ナレヤ。然バ中華ニハ詩作ヲ以謡物トセリ。和国之風俗イトモ賢キ皇之道ノ道タル習トテ童之口号ニ御月様幾ツ十三七ツト往古ヨリ自然ノ道理ヲ謡リ。是ヤ此神哥也。拝ニ童蒙ノ弄ニ加留太之意味ヲ一一思惟ヌ。其様唐渡之
1丁オモテ
-
物ナレバ搪様之至致ハ一二三ノ数卦爻之繫辞顕シ一貫通達シム。夫神理声ナシ。言葉ニ因テ意ヲ興シ、言詞ハ無跡文字ニ縁テ音ヲ圓ス。故ニ字ハ言ノ符蹄トシ、其理ヲ述ベツクスヲ言之符筌トス。琴棊書画之玩ビ中ニモ加留太ノ画圓ヲ見バ、理有テアナガチ無道之物不成。然ルニ予愚意ナガラ、手業織ニ製作スルニ馴テ、閑窓数日探リ求、拙モ一編ス。見聞之人ノ嘲リヲモ恥ズ、又其一ニ三ニ閲を付、童蒙ノ一助トス。偏ニ竿棹以テ比辰ヲ搗、網ナ
1丁ウラ
-
フシテ渕ニ臨ニ似タリト云トモ、其用益ヲ寸志シテ加留太ノ由来ト為事爾リ。
桑林軒謹選誌
印(桑林)(加留太亭)
加留太
客問フ、本邦賤民号シテ二加留太ト一、慱二戯ス勝負ヲ。一答日、是レ本ト蛮語ニシテ即蛮人総呼テ二画図ヲ一称二加留太ト一。而ルニ今所ノレ玩者、彼
国之楽遊ノ具也。此凡有二四品一。朱ニ而為スレ罫ヲ者ヲ号二伊寸一農耕名也。圜
2丁オモテ
-
為レ形ニ彩色有ハ号二遠々留ト一商売名也。青色ニシテ為スレ罫ヲ者ハ号二巴宇一官吏義也。為レ朱並ニ丸成者ハ号二乞浮一酒器也。又十馬切ト呼ブ者ハ皆蛮人之形也リ。日本ニ釈迦之十ト云者ハ、彼ノ土之神形也。凡言心ハ国豊ニ民安ク、農耕テ得レ賦ヲ。商人ハ估買シ、吏ハ明シ二政道一。飲酒■(*1)楽スル之祝言也。載タリ二白河燕談ト云書ニ一。
- 右所レ著詞章ハ凡ノ大綱ヲ記シ了ヌ。且ツ軍用ニ加留太ヲ持テリト云。尤僻事不成。策ヲ帷幄之
2丁ウラ
-
中ニ廻ストカヤ。然ニ心一ツ致シテ水魚之如クスト。又雑兵スラ辛労ヲ休ンジ、睡眠ヲ寤サシメントノ思慮タルベキカ。情ニ中ニ一種ノ徳有レバ、外ニ揜テ十種ノ功有トハ、是ナン士卒之労ヲ保シ能ク恤則ハ、衆軍喜懐ヲ遂ゲ、戦ン場ニ臨テ軍功ヲ励モノカワ。
-
加留太由来
濫觴来歴は不知、其本旨を校訂しぬ。諸国名物考に加留太は筑後国三池に始まり、夫より花洛におひて、経師細工にて三池筑後屋
3丁オモテ
-
友貞抔と名付る加留太有しが古代の物故其名も捨ず、然るに其後次第売弘しが、経師細工より其業を別て、后々只一編に今の黒裏加類多と成りぬ。斯て加類多と云文字を尋に、漢ニ骨牌と書し、和に万葉字を用ひ、今は一向に京都の細工と成て、他国に曽而不成。只京都諸国へ売出せる矣。先人夾ならんで五人搏時ハ、則五濁塵に交るの神慮ニ叶、六人搏時ハ則六塵の
3丁ウラ
-
境ニ遊ぶの道理不背。神ハ元より明にして、和光の同塵、結縁の始也。是におゐて、尋常人交の不和等、此席につらなつてハ欣々然として和睦し、おのつから知己語らひ、面端の規模とす。一旦その機ニ望てハ、百獣脳裂せしむ。一夕其興に乗ずるや、鬼神平伏す。寔に無我無心の歓楽、思無邪之有さま也。是常楽敬浄の床ニ遊宴するに似たり。夫禁字四十八字になぞらへ、四句
4丁オモテ
-
之偈を和釈して、和歌に教ていろはノ仮名文字を製作し、又父読母誦の開口の訓を付、まさに加類多打を読謂べし。又万葉字可留多と書、可留多とかや。且ツ唐渡の加留太ハウンスムとて七十五枚有。しかも一准大ヒ也。然るを、和朝之規則に合せ、其理を縮め、枽数とす。枽の画たるや四十八、因茲名付て枽札ともいつべし。蓋異朝には加留多を打に盤有也。碁、将棊、双六と
4丁ウラ
-
ひとしく、故に加留多も一面と云矣。
加留太璽故事大概
伏羲一ツ画始め給ひ、何等の文字と云共一点を不出、是より形質を成す。言語音律道を辧ず。天地万物の始終を明る事、敉量に至て敉量をしる。言語開けて万物象有、象有れバ文あり、字有。文字成て道開け、物の名をしる。善悪を辧ふ。善ならず悪ならざるを中と云。中ハ天下の太平也。人心の興也。其真の述を顕すハ誠
5丁オモテ
-
乃言葉猶し。真の衰へさらんやうに璽と云ものを以て、その事を正す。是明法と云。
和漢 三才圓会巻十七所見
囲碁・象戯・双陸・蹴鞠・八道行成・毬枝・投壺。
- 有二投壺経一、内典ニ載レ之。礼記ニ有二投壺ノ篇一。西京雑記等ニ仔細ニス。
-
貴賤射二楊弓ヲ一、争二勝負ヲ一為レ戯者多シ。古今風俗ノ変不二惟ニ投壺而已一也。相撲・擲石・意銭・撃壌・鳩車・紙辧色立成ト云。書ニ所謂続事始、太平御覧、有二日月星辰之目一。有将士
5丁ウラ
-
歩卒車馬弩砲之象リ有二千変万化不レ可レ言フ者一。
-
樗蒲(チヨボ)九采・搗(*2)子
擲ヲレ之日二樗蒲ト一。和名加利宇知。俗作樗蒲非也。樗ハ胡化ノ切。樗ハ抽居切。
キユイ。ブウ
五雑爼ニ曰博戯ハ自リ二三代一已ニ有レ之。穆夫子与二井公一博スルコト三日ニシテ而決ス。荘周カ日ク問二穀奚事トスル一。則博塞シテ以テ遊ト云ヘリ。今之樗蒲是其遺法也。但所ノレ用之子随テレ時不固。今ノ樗蒲ハ一ニ云ク、楊廉夫カ所レ作。然ドモ其用有二
6丁オモテ
-
五子四子三子之異一。視二古法ニ一弥簡ナリ矣。
△按樗蒲ニ其製古今不レ周。今所レ用者本出二於南蛮ヨリ一。用二厚紙ヲ一作レ之。外ト黒ク内白シ。而有二画文一。青色名巴宇ト。赤色ヲ名伊須ト。円形名於留ト。半円名骨扶ト。之四品、各十二共ニ四十八枚。其画一ハ則虫形名豆牟ト。二ヨリ至ルトモニレ九画数目也。十ハ則僧形即名十ト。十一ハ騎馬即名牟末ト。十二ハ似二武将ニ一名岐利ト。其名目亦蛮語矣。凡樗蒲賤民喜弄レ之。貴家ニ嘗テ不レ用レ之。総テ好二博塞ヲ一
6丁ウラ
-
者ハ一二銭ノ賭モノ、後ニハ出二金銀ヲ一為メニレ之衣服資財一時ニ放下而盗賊多ハ出ツ二於此ヨリ一。
-
右所謂十ハ僧形ト云非也。蛮国には無僧也。十ハ女形也。十より子を生故に、十一、十二と数の子産。然バ女形なり。天竺にてハ婦人を夜叉と云。彼国にてハ叉嬶と云。本朝にてハ婭嚊と云。十を叉嬶と云謂也。重数の母也。偶数なれバ也。
出二正説郛津逮秘録・■(*3)泉譜・類要事林・事物紀原等ニ一。
7丁オモテ
-
抑本朝にて、春始源氏絵会貝合を初り。其後中院道村公小倉色紙哥合を加留多中立売麩屋何某に命じて作らせ次第追て今専業を所為之職之渡世とす。
-
夫易の一字ハ日月の二字を合て作れり。日ハ陽月ハ陰、日往月来り一陰一陽循環して不レ息。その陰陽循環の理の真なる所は、神妙不測にして、人智を以て識に及ざる所、いまだ卦爻にあらわれず。天地の中に具足して有ゆへに、天地自然と易と云。一ト度ハ栄へ、一ト度は衰ふ。凡栄枯の移り易れる有様誠に是自然の易の道理也。人身にも若ク荘老衰亦復同じ也。伏羲の易に周の文王繫辞をなし
7丁ウラ
-
周公旦爻繫を添る。孔子十博を作り十翼とゆう。四聖を歴て易成就せり。禹王神妙の洛書有故、以上五聖人を崇敬する也。三皇五帝の因縁笑戯荒々如レ此ノ。
-
加留太の敉量の像を顕然し、童蒙に事理すみやかに[ ]を暁えんと、古人[ ]し給ふならん。加留太の図画を童蒙のために縁起して、一二三の意味を一二ならねども、左に記。
○神語四十七言ノ中、和語ノ一二三
△人舎道善命報名親
8丁オモテ
-
子倫
○唐顔一二三但シヤン酒ニ云
△壱 弐 参 四 五 六 七 八 九 十
○梵言一二三但シ阿蘭陀音声也
△壱 弐 参 四 伍 六 七 八 九 十右但シ○有ハ舌ニ付
○一二三の十字
△丁下ヲ除一也故不勾ト記 示不小 王不直 罪不非 吾不口 交不乂 皂不白 分不刀 丸無点 針不金
○一二三の方角
△一ハ北ノ方 水深輪 二ハ南方 火陰 三ハ東方 木陽 四ハ西方 金陰 五中筌 陽音 六水一 土五加 七火二 土五加 八木三 土五加 九金四 土五加 十土五ノ倍数
8丁ウラ
-
○一二三の異名
△一亦下 二舌要児 三凡魯班 四都魯班 五 六只魯蛮 七朶蛮 八餘蛮 九曳孫 十合魯班
○一二三の篆字
△〔省略〕
△一ツ画ハ
-
ひとつハ開キ闔也。開ハ則陽の理、閉ハ陰の気也。■阳(*4)聚まりて質をなす。是比登津と訓ず。其一ツの元ハ理也。理ハ不生不滅にして息なく声なし。以言を言がたし。故に歴記に鴻濛と云。儒家
9丁オモテ
-
に無極とゆう。仏氏に空とゆう。神道ニ渾純とゆう。則円融の義也。混純未生以前なれバ、無相無旨也。故ニ像を虫ニ作り、虫を■(*5)哉。是鶏の子の如く、溟涬て含レ芽といふ。一徳元水共ゆう。此水無波無風湛然空明なれども、理を備へて一つと成らんとす勢有。然るに、加留多に一むし四枚有り、中にも一枚をあざと珍美せり。是字の下略の云也。発端の一なれバ惣領といふ。てう愛あり。潮とも云つべし。
9丁ウラ
-
△二画ハ
-
ひとつハ陽。陽ハ仰ぎ開て奇数となる。二ハ陰。陰ハ俯シ、降て立つて耦数と成る。易に以陽卦ヲ為シレ奇ト陰卦を為レ耦。神道以陽神ヲ独化の神となす。亦陰神を耦升神となすなり。二ハ天也、地也。陰陽清濁升降して乾と成、坤と就、成就て父母也。ニツの気、俯して火気立故ニ不太津と訓ズ。
-
△三画ハ
-
陽中の陰気、陰中の陽気ト合して充ルを三ツとゆう。一ツハ陽にして理、二ツハ
10丁オモテ
-
陰にして気、三ツハ理気合ひ充て形成る也。三種ノ神祇を表し、神慮心の天の道大いに行われ、万物生々す。是を伝へて乾道独化とゆう。是レ天一より始り、地二儀交錯して三ツに開け、万物成る。震旦にも天地人の三才出るより智仁勇の三達の徳、月氏に法報応の三身より示二空仮中之三諦ヲ一。三国の教皆三を以て暁シレ之ヲ、能明成時を陰幽顕露象物ツの表裏、皆其極にいたらざると云事なし。此三ツを陽に借て、一ツの形成故に、三ハ一ニ帰ス方尺有バ円ク三人有
10丁ウラ
-
△四画ハ
-
四ハ陰也。陰の質をなすは、陽去れば陰自をよるを以て質を成也。陽ハ一より生じて三にて形なす。陰ハ二ツより生じて四にて陽のさるに寄を以て形をなす。四ハ陰数にして四に分る。象レ形チ則■■(*6)に四方に象なり。
-
△五画ハ
-
一チ三ハ天、二四ハ地、五ツハ天地中央の数にて土に属す。天地万物を皆陰陽中和の気、土より出るを五とゆう。三を以て陽気成り四ツを以て陰気成る。五を以て陰陽変合して、万物化生す。万物の気質皆以テ
11丁オモテ
-
土より出ざるハなし。中の名興於此ニ。また土より出てちに帰る。故に五鬼の土とゆう也。天の五事、地五行、人の五常、体の五臓、声の五音、食の五味、粮の五穀、皆土に属。五ハ双レ二ヲ、陰陽天地の中間に交なり。乂ハ交午に象ル。二ハ天地也。増韻ニ五ハ中数也。
-
△六画ハ
-
万物五より出て、六に至てみつる。六は陰陽の質充なり。凡充て満ものは天地の間におゐて、水より大成ものハなし。水の水たる事、興一徳水の気より三質生じ、六流なって行水と成る。流行水五の
11丁ウラ
-
中を受る時ハ、水勢泛溢して洪水をなす。易に数陰変二於六一、正二於八一。
-
△七画ハ
-
万物の形質五ツより出て、六に満て七にて成り就るを謂レ七ト。万物の形成る事独陰ならず。陽と交合てなる。六充て陰と成り就るを六害水ト云。是孤陽ならず、陰と交合て成る故に、一三五七の陽敉を以て則七ツに位して陽成り就る。是七ツに訓ズ。
-
△八画ハ
-
開くハ陽、聚ハ陰、陰陽合て質成て、出る声八と発す。六七にて万物の気質成就して
12丁オモテ
-
後自出る音をやと云、やつと訓ズ。陰ハ二より生じ、四にて陽去り、四より起て八ツに帰す。爰に取て四八の敉量呼て四十八枚の加留多の札数をあてり。十ハ空敉にして声に対て四十八ならん。亦■(*7)八卦に、乾ン兌離震ン巽坎ン艮坤、同く約して軍言に、天地風雲竜虎鳥蛇[ ]四方四隅を合て八卦也。夫より分散して八八、六十卦を立る也。八降の御劒、八声の鳥、八乙女、皆口伝と有。八の敉甚深の理有て秘し略之書せり。
-
△九画ハ
12丁ウラ
-
夫レ人物理備なわって質生ず。質生じて声出る時ハ事々物々莫二不成就一九ツにおゐて一物一理成也。即是事々成就の敉、故に敉の大成至極となす。算道に九九八十一の敉を以て、大小方円直曲広挾オ長フ短ン悠遠及爻用ヒレ九ヲて天分を九野ト地別ツ九州とす。九品住シレ官ヲ、九井均シクレ田ヲ、九礼弁フレ分ヲ、九変成シレ楽ヲ、九ハ陽の変也。象二屈曲ク究ク尽之形ヲ一。
-
△十画ハ
-
夫数ハ一より九ニ至て皆津とゆひ、十至りて雄とおこる也。津ハ則チ聚ル也。
13丁オモテ
-
一ツより九に至て理気聚成レ形。故に津と云。十にて数止て亦起ル。故に十と訓ズ。此地ハ五鬼土と同じにて少し差いあり。万物極て滅する時ハ、為レ地、地又生ジ二万物ヲ一、生々不レ息、是を十土地と云也。易に為二剥卦一。剥に九の一爻あり、是止りて起る也。剥卦諸端を消剥已生の理尽て、上九亦変ずる時純陰。然レバ陽尽ルの理なく上に変ずる時ハ下に生ず。少も無間息。加留太此数におゐて人想を尽事、数ハ一より九に至り止り、一ハ早満数として已に物々成就
13丁ウラ
-
として人体を顕せり。人体寛緩の体想を画たり。是太公望・范蠡・張良・諸葛ツ孔明イ等の軍師、儒者たるの躰なるべし。又、琴の糸にも一より十迠ハ敉を唱ふれど。十一、十二、十三、名付てト・イ・キンと云り。加留太の絵形も右琴の糸の唱と同意なる物欤。
-
△十一画ハ
-
大凶変ジテ一元ニ帰ス。敉ハ一より起り、九にて充、十にて変数し、又重敉始り、十一ハ已に満敉也。此声呼て有満也リ。馬に作り、馬を描けり。又欠たるを再興して、満を平直するの量引を、馬にたとへていてもなるべし。又馬乗に甲冑を
14丁オモテ
-
着したる躰、想バ官軍也。夫武ハ王法の荘也。怨敵退治、国ツ衙カを鎮守し修むる也。義臣、政道ニ私なく三列を兼知る。仁勇をおゝる時ハ、世属を刷也。礼讓を以民を按、国家弥増豊饒也。頗武ハ惟天地陰陽相生の時ハ、衆人悦ビ伝[ ]す。可レ学ハ文ン、嗜なんで不捨は武道也。且ツ一ニ本ケ、三ニ帰シ、五ニ変ジ、七ニ正ク、九ニ止リ、十一ヲ末。
-
△十二画ハ
-
一つより十ハ属レ理ニ属レ質ニ、則者理気質の三つを以万物の始中終の敉起りて、始り始りて、終寓聚を無窮の敉と也。惣て一切敉より不出ハなし。然るに十二の因敉も
14丁ウラ
-
隅切ッなるがゆへ切りと唱ふるが、是も歩射に兵具をたいしたる体相を画たり。武ハ劔戟を以て人を破ブり残害といふ心にあらず、武の字、戈を止ると書て、よく不義を討して、国郡を太平ならしめ、干戈を嚢に納むるの名也。又武の要ハ死レ節ニ二字にあり、且ツ二ニ始、四ニ帰、六ニ中リ、八ニ変ジ、十ニ正、十二ヲ終。
右之件ハ
算術・音韻・篆籕等ウの要文ヲ仮リニ需メテ記之畢。
◎加留太因縁
-
△壱ヨリ切迠十二枚、是十二ヶ月也。
15丁オモテ
-
△札数ハ一月三十日、土用十八日、合シテ四十八枚欤。
△加留太惣絵の小数合テ三百十二有り、右札数四十八枚の数ヲ加ヘテ三百六十有。是一年の日数也。
-
夫レ一ヶ年の日数三百六十四日ハ天ノ一年、三百六十日ハ地の一年。又三百八十四日と三百五十八日とす人の一年也。十一月ハ周の正月とて天の正月と云。十二月ハ殷の正月とて地の正月と云。又三十年来に壱度、十一月朔日に冬至在て、是を朔旦冬至とて和漢ンとも祥瑞とし、賀辞の御祝有。爰に俗説の諺に、正月かるたをうてバ、夏蚊にさゝれぬと云伝へて祝言せり。是を今の正月ハ夏正月なれバ、かくなん云いはんべぬらん
-
△唐韻ニ
○巴宇 春士夷乾弦
15丁ウラ
-
○伊寸 夏農蛮坤毛
○乞浮 秋工戎陰洪
○遠々留 冬売狄陽石
右四品ハ四季也。
[カルタ図版]
-
巴宇 上之表シ 釼ノ鞘
伊寸 右同断 青龍頭寳釼
乞浮 右同断 白錦寳袋
遠々留 右同断 マトカナル黄金
16丁オモテ
-
△巴宇の劔の鞘ハ干戈を宝納する祝儀なり。
△伊寸の劔ハ煩悩生死のきつなを切る降摩の利劔なり。
△乞浮の袋ハ三恵の智を納る也。
△遠々留のまるかせは衣食住の貯の三樽なり。
○珍曲加留太風流
加留太奇妙、裏より絵揃へ取中
16丁ウラ
-
先一二三四五六七八九十馬切と四通りながら手にとく/\と三四枚取揃持チて、扨切まぜる法下より上へ/\と三四枚程づゝならし、五六枚成共持上ケ重テ幾度成共切上ケ/\すり当のごとくには切らず、扨一枚つゝ十二取ておきて、初めの所より壱枚宛十二所へ加へ、四度加ワへ見れバ、同ジもの四枚も揃ふ也。又此四枚づゝ揃たるをとく/\手に取持、右の如ク下タより上へ重上ゲ/\扨又四所に置ならべ、始めの所より一枚づゝ以上
17丁オモテ
-
十二度加へ見れば、一より切迠揃也。右を算術ツより考へ工夫出る面にして、敢て無道の所為と不可取物也。
-
夫レ加留太ハ往古の算術可成欤。十二枚を以、十百千万の大用の四通りを立つらん。今ハ翫物と成ぬ。それを廻り遠きとて、后の易学より考へ出る。河図洛書・洪範九ウ疇を以取ことゝす。古へハ算盤も初板に碁盤の目の如く目を入る。商ウ実、法ウ簾ン・偶条と書つけて、算木を以て術とせり。近代三善保憲といふ人、十露盤を工夫仕始め、算法を出せり。
-
初段に載る白河燕談の言について曰、人ン間ン万事塞翁か駒
、遊行頭枕聴雨賦と是非を示せり。水清
17丁ウラ
-
者魚踊ず。夫国邦盤栄なれば盗賊有。家富バ鼠有。身温肥なれバ虱有。是国邦に無用たりといへども群衆を糺す巨籥なり。邪正一如、善悪不二と云則ハ国政補作の大礼たるこそ円満目出度けれ。柳ハ緑花は紅ゐと自然の正理を示す。強て猥に不忍を是を釆て以て制すとかや。彼の郝公ハ其黒ク白たる事を厳しく糺シ明し給ふより逆党のために亡国し給ふと云々。加留太全ク博奕物にあらず。其所変の用捨に
18丁オモテ
-
よる物欤。其外、賭禄すれバ、碁・将棊・双六も博奕とやいわん。一花開けバ天下の春を知り、鶯ハ梅か枝にくせりかい、蚊蝶花に戯れ、時去り時移り、五月雨、あやめとかわり、早苗も秋のかぜに紅葉して、五穀成就して刈田を祝ふ賀儀の名にや。又正月ハ睦月とて七五三て、互に睦び会すの所謂なり。酒興の友とするかるたの翫楽笑悦を催し、目出度春也。
○跋
或客、加留太の将来をとふ度に
18丁ウラ
-
日域にはしまらざるもの故へ其伝なし。然共多日懇望せられ止事を得ずして、拙き筆を取むかへ、相応ヶ間敷俤を集め、一句二句と綴に任て漸々壱巻の艸書終ぬ。鄙言通文はつるに尤餘り有、[ ]いつしけれバとて、黄金を捨事なかれ。夫不見や、四徳の中にも義に依て文によらざれバと教へ給り。然ば此編集短悪未練の愚書なりといへども、予匣中ウにいたずらに朽チはてんも無慙に
19丁オモテ
-
口惜く、普く童蒙にあたへんとかく斗
△山風にふき伝へこし
紅葉はをうち捨て
かたく書集けり
19丁オモテ
注
(1)りっしん偏に「失」。「快」の異字体と思われる。
(2)『和漢三才図絵』のオリジナル版本では、木偏に「梟」。
(3)草冠に「卓」。
(4)一字目は、こざと偏に「月」。
(5)「尺」を平たく潰した形の下に「皿」。
(6)一字目は竹冠に「四」、二字目は竹冠に「儿」
(7)「爻」を左右二つ並べた形。
公開年月日 2015/07/23